名画の魅力に迫る

らく書きに見える絵/アンドレ・マッソン<名画の魅力に迫る>

シュルレアリスム(またはシュールレアリスム、超現実主義)の画家アンドレ・マッソンによる『自動描画(オートマティックドローイング/Automatic Drawing)』。
アンドレ・マッソン『自動描画(オートマティックドローイング)』(1924) Museum of Modern Art, New York

フランスの画家アンドレ・マッソン(1896-1987)による『自動描画(オートマティックドローイング)』には、曲線のような線が何度も重ねられて描かれている。そこには花や人などといった何か具体的なものが描かれているわけではない。

この単に線がいくつも重ねられただけの作品が美術館に飾られていたら、一体どのように見ればいいのだろう...?

この謎めいた“らく書き”のようにも見えるマッソンの絵は、実は20世紀初頭にフランスで起こった芸術運動シュールレアリスム(超現実主義)の代表的な作品の一つだ。現在、ニューヨーク近代美術館に所蔵されている。

マッソンをはじめとするシュールレアリスムの画家は、「無意識」という目に見えないものを表現しようとした。

マッソンの『自動描画(オートマティックドローイング)』もその一つだった。

マッソンはまず、紙とペンを用意し、出来るだけ具体的に何かを描くことを意識せずに、無意識に近い状態で紙の上にペンを走らせた。そうして偶然に出来た線の流れは、私たちが見ている日常の世界とは別の「無意識」の世界の表れ、と言う。

シュルレアリスム(またはシュールレアリスム、超現実主義)の画家アンドレ・マッソンによる『自動描画(オートマティックドローイング/Automatic Drawing)』。
アンドレ・マッソン『自動描画(オートマティックドローイング)』(1924)

普段、電話をしている時などに、無意識に紙の上にペンを走らせた経験があるかもしれない。それはまさにマッソンの『自動描画(オートマティックドローイング)』と同じ。

Pixabay

この誰でも描けてしまう絵を描いたアンドレ・マッソンだが、パリやブリュッセルで美術教育を受け、『自動描画(オートマティックドローイング)』を描く以前はキュビズムに興味を持ち『スタジオにある台座(Pedestal Table in the Studio)』などを残している。

シュルレアリスム(またはシュールレアリスム、超現実主義)の画家アンドレ・マッソンによる『スタジオにある台座(Pedestal Table in the Studio)』
アンドレ・マッソン『スタジオにある台座(Pedestal Table in the Studio)』(1922) The Tate

シュールレアリスムの略称“シュール”という言葉を聞くと、現実とは思えないものというイメージを持つこともあるかもしれない。しかしマッソンらシュールレアリスムの芸術家にとって、日常の世界とは別の人間の「無意識」の世界を表現することは、より深く人間の姿を表すことを意味していた。彼らにとって、意識できる世界だけではなく、無意識の世界もまた「現実」であり、その現実を表現することが“シュール”だった。

このマッソンの絵画における新しい試みは、のちに新大陸のアメリカの抽象表現主義に大きな影響を与える。

アクションペインティングをするジャクソン・ポロック photo by Hans Namuth
アクションペインティングをするジャクソン・ポロック photo by Hans Namuth

抽象表現主義の代表的画家ジャクソン・ポロックは「無意識」を利用して直感的に巨大なキャンバスに絵具を落として、抽象画を制作した。

抽象表現主義の画家ジャクソン・ポロックによる『ルシファー(Lucifer)』
ジャクソン・ポロック『ルシファー(Lucifer)』(1947)

マッソンの『自動描画』は、絵画の対象が目に見えない人間の「無意識」の世界まで広がる幕開けとなる一枚だった。

✎著/ 種をまく https://www.tane-wo-maku.com

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