日本の美術館の所蔵品から、今日の一枚

信濃で、東山魁夷の名作『緑響く』を楽しむ。

長野県信濃美術館の東山魁夷館の所蔵の日本画家、東山魁夷の代表作である『緑響く』。
東山魁夷『緑響く』1982 長野県信濃美術館 東山魁夷館

長野市内にある長野県信濃美術館の東山魁夷館には、昭和から平成に掛けて活躍した日本画の巨匠、東山魁夷の有名な代表作『緑響く』が所蔵されている。この絵はかつてシャープの薄型液晶テレビAQUOSのCMで使われたことで一躍有名になった。覚えている人もいるかもしれない。一頭の白い馬が森の湖畔を歩む姿を描いたものだ。この情感溢れる幻想的な風景画は、長野県に実際にある風景がもととなっている。

この『緑響く』でまず目に留まるのは、画面右奥に小さく描かれた岸辺を歩む白い馬。画面の手前から白い馬がいる遠くの岸辺まで緑色の湖が広がる。その湖畔の向こうには、木々が立ち並ぶ深い森がある。

長野県信濃美術館の東山魁夷館の所蔵の日本画家、東山魁夷の代表作である『緑響く』。
東山魁夷『緑響く』

この絵の構図的な魅力は、白い馬のいる森の風景が絵の中央を横断する岸辺の線を境に反転し、る湖面に鏡のように映し出されている所だろう。この反転により、緑の森の木々が絵全体を満たし、その中で湖畔を歩む白い馬の姿が引き立つ。

長野県信濃美術館の東山魁夷館の所蔵の日本画家、東山魁夷の代表作である『緑響く』。
東山魁夷『緑響く』

画家は長野県の蓼科高原にある御射鹿池(みしゃかいけ)の風景からインスピレーションを得てこの絵を描いた。

長野県信濃美術館の東山魁夷館所蔵の日本画家、東山魁夷による代表作『緑響く』のもとになった蓼科高原にある御射鹿池の風景。
夏の御射鹿池の風景。

『緑響く』の湖畔にいる白い馬は実際に存在したわけではなく、画家の心の中に浮かんだものだったという。そして画家が描いた森の湖畔の景色は、白い馬が画家に見せた馬自身の心の風景(心象風景)だったという。多少難解な部分もあるが、白い馬が現れた風景について画家は次のように語っている。 
「ある時、一頭の白い馬が私の風景の中に、ためらいながら小さく姿を見せた。…しかしいつも、ひそやかに遠くの方に見える場合が多く、決して前面に大きく現れることはない。」「風景は全て背景としての役目であって、白い馬の象徴する世界を、風景が反映しているのである。」
『緑響く』は、白い馬の見ている夢を画家が夢見るような、夢想的な風景画となっている。

長野県信濃美術館の東山魁夷館の所蔵の日本画家、東山魁夷の代表作である『緑響く』の一部。
『緑響く』の一部

東山魁夷館にはこの有名な『緑響く』の他にも、画家の若い頃の作品を含めて多数所蔵されている。信州は画家にとって、「作品を育てくれた故郷」と呼ぶほど、絵の制作にインスピレーションを与えてくれる場所だった。画家が愛してやまなかった信州の緑豊かな風景に囲まれたこの美術館で、東山魁夷の世界にじっくりりたい。

日本画家、東山魁夷の代表作である『緑響く』が所蔵されている長野県信濃美術館の東山魁夷館。
長野県信濃美術館 東山魁夷館

長野県信濃美術館 東山魁夷館
〒380-0801 長野市箱清水1-4-4
(善光寺東隣)
https://nagano.art.museum/higashiyama_kaii_gallery
・東山魁夷館は、画家が生前に自宅で保存していた作品を長野県に寄付したことをきっかけに建てられたもの。画家の駆け出しの若い頃から晩年までの幅広い作品を所蔵する。同館は市内の有名な観光名所の善光寺の敷地から道路を挟んですぐ隣に位置する。美術館は建築家の谷口吉生によるもので、東山魁夷の絵画の「額縁」になるように設計されたという。確かにその作品を引き立たせるような簡潔な佇まいとなっている。

参考:『東山魁夷』日本経済新聞出版社 1991

✎著/ 種をまく https://www.tane-wo-maku.com

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