猛烈な暑さが続く中、マリンスポーツを楽しむ人で賑わいを見せる逗子海岸。マリンスポーツを楽しんだ後は、近くにある神奈川県立近代美術館の葉山館へ訪れてみてはどうだろうか。
元は高松宮家の別邸だった所に建てられた葉山館は、海岸沿いに建ち、その海の風景も取り入れた建築デザインになっており、館内からの海の眺めも素晴らしい。この美術館は意欲的で、実験的な試みの展覧会が多く開催されていることでも知られる。
現在(20022年夏)、写真家アレック・ソスの展覧会『Gethered Leaves』が開催されており、白を基調とした天井の高い涼しい館内で、ゆっくり写真の鑑賞を楽しめる。
アレック・ソスは1969年生まれで、アメリカのミネソタ州を拠点とする現代を代表する写真家の一人。国際的な評価も高く、これまでに25冊以上の写真集を出版しており、名高い写真家集団であるマグナム・フォトの正会員でもある。
写真には人々の躍動感や活気、自然の生き生きとした姿を伝えるものがあるが、現代のアメリカを写したアレック・ソスの写真は「静的」で、時に絵画的な印象さえ与える。彼によって切取られ、写真に収まった束の間の「今」は、三次元の動きのある立体的な世界から、永続的で静かな平面的二次元の世界へ置き換わる。
今回の葉山の神奈川県立美術館の展覧会は、アメリカを題材とする5つのシリーズである初期の代表作〈Sleeping by the Mississippi〉から最新作の〈A Pound of Pictures〉までを概観している。
下の2枚の写真は、アメリカを縦断する長いミシシッピ川を旅しながら、人々や風景を写真に収めた作品〈Sleeping by the Mississippi〉に収められたもの。展覧会の最初の会場で飾られている。
次の2枚は、現代のアメリカで社会から離れ、荒野や洞窟で生活する「社会からは外れた」人々を写した〈Broken Manual〉に収められているもの。今回の展覧会でも展示されている。風景や人物を平面に映し、絵画との横断も感じられる。
ラファエル前派の画家、ジョン・エヴァレット・ミレーが描いた有名な『オフィーリア』を想起させるかもしれない。
写真はそもそも、現実の世界を写し、その事実を伝えるために造られたものだが、アレック・ソスの写真は、記録写真や報道写真からは少し距離を置く。むしろ写真の別の大切な要素である、過去となる「ひと時」を「永遠」のものとして残す写真の機能を生かした作品ともいえるかもしれない。
内省的な思考へと誘うようなアレック・ソスの写真。日常の喧騒から離れ、アレック・ソスが写真を通して巧みに構成し、捉えた「アメリカ」の風景を見てみたい。
神奈川県立近代美術館 葉山での展覧会は2022年10月10日(月・祝日)まで。アレック・ソスのサイト(https://alecsoth.com/photography/)では彼の動画なども掲載されている。
✎著/ 種をまく https://www.tane-wo-maku.com